森 鴎外 作 木精読み手:水野 久美子(2019年) |
巌が屏風のように立っている。登山をする人が、始めて深山薄雪草の白い花を見付けて喜ぶのは、ここの谷間である。フランツはいつもここへ来てハルロオと呼ぶ。
麻のようなブロンドな頭を振り立って、どうかしたら羅馬法皇の宮廷へでも生捕られて行きそうな高音でハルロオと呼ぶのである。
呼んでしまってじいっとして待っている。
暫くすると、大きい鈍いコントルバスのような声でハルロオと答える。
これが木精である・・・