山川 方夫 作 十三年読み手:西村 文江(2019年) |
明るい昼すぎの喫茶店で、彼は友人と待ち合わせた。友人はおくれていた。
客のない白い円テーブルが、いくつかつづいている。夏のその時刻は客の数もまばらで、そのせいか、がらんとした店内がよけいひろくみえる。
ふと、彼は、彼をみつめている一つの眼眸に気づいた。生温くなった珈琲にゆっくりと手をのばして、彼は、同じ窓ぎわの、五、六メートル先きのテーブルのその女をみた。
若くはない。女は、そろそろ四十歳に近い年頃に思える。上品な紺いろの明石らしい和服を着て、同じテーブルには、娘だろう、肩をむき出したピンクの服の少女がいる。少女は、ソックスをはいた白い棒のような細くながい脚を、退屈げにぶらぶら動かしている・・・