小川 未明 作 煙と兄弟読み手:水野 礼子(2019年) |
うすぐもりのした空を、冷たい風が吹いていました。少年は、お母さんの、針仕事をなさる、窓のところで、ぼんやり、外の方をながめていました。もはや、木の葉がうすく色づいて、秋もふけてきました。
「さっきから、そこで、なにを見ているの。」と、お母さんが、少年のようすに気がついて、聞かれました。
「ぼく、煙を見ていたの。」
お母さんは、ちょっと手を止めて、その方を見ると、となりの家の煙突から青白い煙が上っていました。
「お風呂の煙でしょう。」
それは、少年にわかっていました。彼は、それを知らなかったのでありません・・・