梅崎 春生 作 腹のへった話読み手:池戸 美香(2020年) |
申すまでもなく、食物をうまく食うには、腹をすかして食うのが一番である。満腹時には何を食べてもうまくない。
今私の記憶のなかで、あんなにうまい弁当を食ったことがない、という弁当の話を書こうと思う。弁当と言っても、重箱入りの上等弁当でなく、ごくお粗末な田舎駅の汽車弁当である。
中学校二年の夏休み、私は台湾に遊びに行った。花蓮港に私の伯父がいて、私を招いてくれたのである。うまい汽車弁当とは、その帰路の話だ。
花蓮港というのは東海岸にあり、東海岸は切り立った断崖になっている関係上、その頃まだ道路が通じてなく、蘇澳から船便による他はなかった・・・