海野 十三 作 殺人の涯読み手:田中 淑恵(2020年) |
「とうとう女房を殺してしまった」
私は尚も液体を掻き廻しながら、独り言を云った。
大きな金属製の桶に、その白い液体が入っていた。桶の下は電熱で温められている。ちょっとでも、手を憩める遑はない。白い液体は絶えずグルグルと渦を巻いて掻き廻わされていなければならない。液体は白くなって来たが、もっともっと白くならなければならないのだ。まだまだ掻き廻わし方が足りないのに違いない。私は落ちかかる白い実験衣の袖を、また肘の上まで捲くりあげた。
この白い液体の中には、実は女房の屍体が溶けこんでいるのだ・・・