石川 啄木 作 斎藤 三郎 編 散文詩 火星の芝居読み手:みきさん(2020年) |
『何か面白い事はないか?』
『俺は昨夜火星に行つて來た。』
『さうかえ。』
『眞個に行つて來たよ。』
『面白いものでもあつたか?』
『芝居を見たんだ。』
『さうか。日本なら「冥途の飛脚」だが、火星ぢや「天上の飛脚」でも演るんだらう?』
『其麼ケチなもんぢやない。第一劇場からして違ふよ。』
『一里四方もあるのか?』
『莫迦な事を言へ。先づ青空を十里四方位の大さに截つて、それを壓搾して石にするんだ。石よりも堅くて青くて透徹るよ。』
『それが何だい?』・・・