夢野 久作 作 線路読み手:伊藤 和(2020年) |
カラリと晴れた冬のまひるであった。私は町へ出る近道の鉄道線路を歩いていた。若い健康な全身の弾力を、両方の掌にギュッと握り締めて左右のポケットに突込んで……。
静かな静かな、長い長い落ち葉林の間を中途まで来ると、行く手に立っていた白いシグナルがカタリと音をたてて落ちたあとはもとの静寂にかえった。
……青い空と白い太陽の下にただ一人、線路を一直線に進んでゆく誇らかな心……。
向うから汽車が来る。
真黒に肩を怒らした機関車を先に立てて、囚人のようにつながって来る貨物車の群れが見える・・・