島崎 藤村 作 幸福読み手:松岡 初子(2020年) |
「幸福」がいろいろな家へ訪ねて行きました。
誰でも幸福の欲しくない人はありませんから、どこの家を訪ねましても、みんな大喜びで迎えてくれるにちがいありません。けれども、それでは人の心がよく分りません。そこで「幸福」は貧しい貧しい乞食のような服装をしました。誰か聞いたら、自分は「幸福」だと言わずに「貧乏」だと言うつもりでした。そんな貧しい服装をしていても、それでも自分をよく迎えてくれる人がありましたら、その人のところへ幸福を分けて置いて来るつもりでした。
この「幸福」がいろいろな家へ訪ねて行きますと、犬の飼ってある家がありました。その家の前へ行って「幸福」が立ちました・・・