閉じる
中島 敦 作
読み手:水野 久美子(2021年)
ご利用のブラウザではこの音声を再生できません。
十年前、十六歳の少年の僕は学校の裏山に寝ころがって空を流れる雲を見上げながら、「さて将来何になったものだろう。」などと考えたものです。大文豪、結構。大金持、それもいい。総理大臣、一寸わるくないな。全くこの中のどれにでも直ぐになれそうな気でいたんだから大したものです。所でこれらの予想の外に、その頃の僕にはもう一つ、極めて楽しい心秘かなのぞみがありました。それは「仏蘭西へ行きたい。」ということなのです・・・