小川 未明 作 青い草読み手:まあき、マナミン、ジョン酒巻(2021年) |
小さな姉弟は、父の目が、だんだん見えなくなるのを心配しました。
「お父さん、あのカレンダーの字が、わからないの?」と、壁の方を指していったのは、もう前のことであります。お父さんが、会社をやめてから、家の内にも夜がきたように暗くなったのです。
「私の故郷へ帰りましょう。田舎は、都会とちがって、困るといっても、田はあるし、畑があるし、まだゆとりがあります。いけば、どうにかならないこともありますまいから。」と、子供の母親がいいました。
「お母さん、田舎へ帰るの。」と、姉のとし子は、お母さんの体へすがりながらききました。
「ええ、帰りましょうね、そうするよりしかたがないんですもの。」
お母さんは、みんなの気持ちを励ますつもりで、いいましたが、また、すぐに涙ぐんでしまいました・・・