小川 未明 作 ねずみの冒険読み手:中田 真由美(2021年) |
一匹のねずみが、おとしにかかりました。夜中ごろ天井から降りて、勝手もとへ食べ物をあさりにいく途中、戸だなのそばに置かれた、おとしにかかったのです。空腹のねずみは、あぶらげの香ばしいにおいをかいで、我慢がしきれなかったものでした。ねずみは、そのせまい金網の中で、夜じゅう出口をさがしながら、あばれていました。夜が明けると、ねまきを着た、この家の主人が、奥からあらわれました。
「大きいねずみだな。こいつだ、このあいだから、そこらをガリガリかじったのは。」
主人は、しばらく立って見ていました。
「どうしてくれようか。」
ものぐさな主人は、自分の手で殺さずに、ねこに捕らえさせることを考えました・・・