モオパッサン 作 秋田 滋 訳 初雪読み手:土居 愛子(2021年) |
長いクロワゼットの散歩路が、あおあおとした海に沿うて、ゆるやかな弧を描いている。遥か右のほうに当って、エストゥレルの山塊がながく海のなかに突き出て眼界を遮り、一望千里の眺めはないが、奇々妙々を極めた嶺岑をいくつとなく擁するその山姿は、いかにも南国へ来たことを思わせる、うつくしい眺めであった。
頭を囘らして右のほうを望むと、サント・マルグリット島とサント・オノラ島が、波のうえにぽっかり浮び、樅の木に蔽われたその島の背を二つ見せている。
この広い入江のほとりや、カンヌの町を三方から囲んで屹立している高い山々に沿うて、数知れず建っている白堊の別荘は、折からの陽ざしをさんさんと浴びて、うつらうつら眠っているように見えた・・・