中原 中也 作 山羊の歌 雪の宵読み手:松岡 初子(2021年) |
ホテルの屋根に降る雪は
過ぎしその手か、囁きか
ふかふか煙突煙吐いて、
赤い火の粉も刎ね上る。
今夜み空はまつ暗で、
暗い空から降る雪は……
ほんに別れたあのをんな、
いまごろどうしてゐるのやら。
ほんにわかれたあのをんな、
いまに帰つてくるのやら
徐かに私は酒のんで
悔と悔とに身もそぞろ。
しづかにしづかに酒のんで
いとしおもひにそそらるる……
ホテルの屋根に降る雪は
過ぎしその手か、囁きか
ふかふか煙突煙吐いて
赤い火の粉も刎ね上る。