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谷崎 潤一郎

客ぎらい

読み手:成 文佳(2021年)

客ぎらい

著者:谷崎 潤一郎 読み手:成 文佳 時間:26分22秒

 たしか寺田寅彦氏の随筆に、猫のしっぽのことを書いたものがあって、猫にあゝ云うしっぽがあるのは何の用をなすのか分らない、全くあれは無用の長物のように見える、人間の体にあんな邪魔物が附いていないのは仕合せだ、と云うようなことが書いてあるのを読んだことがあるが、私はそれと反対で、自分にもあゝ云う便利なものがあったならば、と思うことがしば/\である。猫好きの人は誰でも知っているように、猫は飼主から名を呼ばれた時、ニャアと啼いて返事をするのが億劫であると、黙って、ちょっと尻尾の端を振って見せるのである。縁側などにうずくまって、前脚を行儀よく折り曲げ、眠るが如く眠らざるが如き表情をして、うつら/\と日向ぼっこを楽しんでいる時などに、試みに名を呼んで見給え、・・・

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