島木 健作 作 ジガ蜂読み手:小林 きく江(2022年) |
初夏と共に私の病室をおとづれる元気な訪問客はジガ蜂である。ジガ蜂の颯爽たる風姿はいかにもさかんな活動的な季節の先駆けたるにふさはしく、沈んだ病室内の空気までがにはかに活気を帯びて来るやうに思はれるのだつた。彼等は一刻もぢつとしてゐるといふことを知らない。飛んでゐる時は勿論、とまつてゐる時も溢るる精気に絶えず全身を小刻みにキビキビ動かし続けてやまない。胸から腹に続くところは糸のやうに細く、全体に細長い胴体はスマートで一見華奢のやうに見えるが、その実しんなりと硬く強靱で、あの細腹にしてからが棒切れぐらゐで引きちぎらうとしてもさう簡単に引きちぎれるものではない・・・