樋口 一葉 作 雨の夜読み手:成 文佳(2022年) |
庭の芭蕉のいと高やかに延びて、葉は垣根の上やがて五尺もこえつべし、今歳はいかなれば斯くいつまでも丈のひくきなど言ひてしを夏の末つかた極めて暑かりしに唯一日ふつか、三日とも数へずして驚くばかりに成ぬ、秋かぜ少しそよ/\とすれば端のかたより果敢なげに破れて風情次第に淋しくなるほど雨の夜の音なひこれこそは哀れなれ、こまかき雨ははら/\と音して草村がくれ鳴こほろぎのふしをも乱さず、風一しきり颯と降くるは彼の葉にばかり懸るかといたまし・・・