宮沢 賢治 作 銀河鉄道の夜
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「ここへかけてもようございますか。」
がさがさした、けれども親切そうな、大人の声が、二人のうしろで聞えました。
それは、茶いろの少しぼろぼろの外套を着て、白い巾でつつんだ荷物を、二つに分けて肩に掛けた、赤髯のせなかのかがんだ人でした。
「ええ、いいんです。」ジョバンニは、少し肩をすぼめて挨拶しました。その人は、ひげの中でかすかに微笑いながら荷物をゆっくり網棚にのせました。ジョバンニは、なにか大へんさびしいようなかなしいような気がして、だまって正面の時計を見ていましたら、ずうっと前の方で、硝子の笛のようなものが鳴りました。汽車はもう、しずかにうごいていたのです。カムパネルラは、車室の天井を、あちこち見ていました・・・
「青空文庫」には「銀河鉄道の夜」は4つのテキストが掲載されています。
本朗読は、底本「新編 銀河鉄道の夜」(新潮文庫)を使用していますが、一部原稿が欠落している部分は「銀河鉄道の夜」(岩波文庫)のテキストを使用しています。