江戸川 乱歩 作 一人の芭蕉の問題読み手:水野 久美子(2022年) |
木々高太郎君の「新泉録」に對し成可く無遠慮な感想を書けといつて雜誌ロックの山崎君が新泉録の原稿を見せてくれた。山崎君の内心は私達の間に活溌な論爭を期待してゐる模樣であつたが、木々君の考へと私の考へとは故甲賀三郎君と木々君と程は相違してゐないので、論爭にはならないかも知れない。併し多少意見の相違が無いでもないから、少しく私の感想を書いて見ようと思ふ。
最も直截に云ふと木々説は探偵小説本來のもの即ち謎や論理の興味が如何に優れてゐても、獨創があつても、それが文學でなければ意味がないといふのに對し、私の考へは、無論文學を排撃するものではないが、・・・