閉じる

閉じる

山本 周五郎

雪の上の霜

読み手:中村 昭代(2022年)

雪の上の霜

著者:山本 周五郎 読み手:中村 昭代 時間:1時間31分57秒

   一

 その仕事は簡単なものであった。街道に立っていて、荷物を(重たそうに)持っている旅人が来たら、あいそよく呼びかけて、こう云うのである。
 ――次の宿までその荷物を持ちましょう。つまり、馬や駕籠に乗るほどではないが、歩き草臥れて少しばかり荷物が厄介になった、という客のために、馬や駕籠よりも安価な駄賃で、荷物を持ってやる。というわけである。……これはもちろん三沢伊兵衛の新案ではない、妻と二人の、ながい、放浪の旅のあいだに、子供がやっているのを、幾たびか見たことがあった。みんな十歳前後の子供たちで、またそのくらいの者に適当した、ほんの小遣稼ぎにすぎないだろう。伊兵衛のように背丈が五尺八寸もあり、武芸で鍛錬した十七貫余もある躰躯では、不似合というより些か滑稽である・・・

Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.