佐藤 春夫 作 われらが四季感読み手:横山 宜夫(2022年) |
「ぼくはもう極楽行きは見合はせることにきめたよ」
と或る時、芥川龍之介が、例のいたずらつぽい眼をかがやかしながら、わたくしに話しかけたことがあつた。
「?」これはきつと何かあとにつづくおもしろい言葉があるに違ひないと予想したから、わたくしがあとを期待してゐると、彼は言ふのであつた。
「極楽は四時、気候、温和快適だとかで、季節の変化は無いらしいね。季節の変化のない世界など、ぼくにはまつぴらなのだ」
いかにも芥川らしい言ひ分であつた。彼は一面で俳人であり、俳句は季節の変化を主題とする文学だから、芥川が季節に変化のない世界をまつぴらだといふのは尤も千万である・・・