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芥川 龍之介 作
読み手:土屋 由美子(2022年)
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尾生は橋の下に佇んで、さっきから女の来るのを待っている。 見上げると、高い石の橋欄には、蔦蘿が半ば這いかかって、時々その間を通りすぎる往来の人の白衣の裾が、鮮かな入日に照らされながら、悠々と風に吹かれて行く。が、女は未だに来ない。 尾生はそっと口笛を鳴しながら、気軽く橋の下の洲を見渡した。 橋の下の黄泥の洲は、二坪ばかりの広さを剰して、すぐに水と続いている・・・