芥川 龍之介 作 鬼ごつこ読み手:齋藤 こまり(2022年) |
彼は或町の裏に年下の彼女と鬼ごつこをしてゐた。まだあたりは明るいものの、丁度町角の街燈には瓦斯のともる時分だつた。
「ここまで来い。」
彼は楽々と逃げながら、鬼になつて来る彼女を振りかへつた。彼女は彼を見つめたまま、一生懸命に追ひかけて来た。彼はその顔を眺めた時、妙に真剣な顔をしてゐるなと思つた。
その顔は可也長い間、彼の心に残つてゐた。が、年月の流れるのにつれ、いつかすつかり消えてしまつた。
それから二十年ばかりたつた後、彼は雪国の汽車の中に偶然、彼女とめぐり合つた・・・