徳冨 蘆花 作 水汲み読み手:横山 宜夫(2022年) |
玉川に遠いのが第一の失望であつた。井の水が悪いのが差当つての苦痛であつた。
井は勝手口から唯六歩、ぼろ/\に腐つた麦藁屋根が通路と井を覆ふて居る。上窄りになつた桶の井筒、鉄の車は少し欠けてよく綱がはずれ、釣瓶は一方しか無いので、釣瓶縄の一端を屋根の柱に結はへてある。汲み上げた水が恐ろしく泥臭いのも尤、錨を下ろして見たら、渇水の折からでもあらうが、水深が一尺とはなかつた。
移転の翌日、信者仲間の人達が来て井浚へをやつてくれた・・・