永井 荷風 作 枯葉の記読み手:成 文佳(2022年) |
おのれにも飽きた姿や破芭蕉
香以山人の句である。江戸の富豪細木香以が老に至って家を失い木更津にかくれすんだ時の句である。辞世の作だとも言伝えられている。
ある日わたくしは台処の流しで一人米をとぎながら、ふと半あけてあった窓の外を見た時、破垣の上に隣の庭の無花果が枯葉をつけた枝をさし伸しているのを見て、何というきたならしい枯葉だろう。と思った。枯葉の中にあんなきたならしいのがあるだろうかと思うにつけて、ふと香以の句が胸に浮んだのである。しなびて散りもせぬ無花果の枯葉は全くきたならしい・・・